2025.10.17

霊媒師マリーの館 殺人事件 解説

今回の事件で、俺や君たちがどうやって犯人にたどり着いたのか。
その過程を皆にも共有しようと思う。


まずは第一の事件

現場の状況的に、被害者が自殺したという線はありえなかった。
容疑者は5人。犯人の証言には必ず矛盾やほころびが生じるはずだ。
慎重に5人の容疑者の証言を整理してみよう。

<アレックス>
・レナを殺す動機がない。
・帰ったのは12時ごろ。

<ブルーノ>
・館に来たのは12時30分。すでにジェレミーがいた。
・14時45分に死体発見。客はブルーノとゲルトしかいなかった。

<ジェレミー>
・11時30分ごろに館に到着。すでに客が3人いたうち、一人はレナ。
・アレックスは12時30分、レオンは13時に帰った。

<レオン>
・10時に館に到着。アレックスは先にいた。
・帰りにブルーノを見た。

<ゲルト>
・13時ちょうどに館に到着。
・腕の内側についていた時計は正しい時間を指している。
・ブルーノより後に館に来た。その後ブルーノが死体を発見。
・レナと交際していた。死因は背後の傷で間違いない。

そして、マリーさんの霊媒で現れた被害者のレナさんはこのように証言していた。

<レナ>
・待合室で背後から刺された、犯人は見ていない。

だが、この時点では、容疑者の中に明確に嘘をついていると言える人物はいなかった……
どうにかしてこの時に犯人を捕まえることができていれば……

 


その結果起こってしまったのが第二の事件だ。
また容疑者の証言を整理してみよう。

<アレックス>
・11時ごろに館に到着。すでに死体発見後で、ブルーノとゲルト、さらにもう一人いた。

<ブルーノ>
・10時過ぎに館に到着。しばらくしてゲルトが死体を発見。
・ブルーノより前に来た客はゲルトと、昨晩の被害者のレナ(死体)だけだった。

<ジェレミー>
・館についてすぐにゲルトが死体を発見。ブルーノもいた。

<レオン>
・11時ごろに館に到着。ルイスと主に入館。
・死体の男の身元は誰も知らなかったと言っていた。

<ゲルト>
・この事件の第一発見者。ブルーノも一緒にいた。
・館には、予定より早い10時前には到着していた。

そして、マリーさんの霊媒で明らかになった今回の被害者であるハイマンの証言。

<ハイマン>
・第一の事件の取材をさせてくれると連絡があって館に来た。
・背中を背後から刺された。
・レナと交際していた。


俺はこのハイマンさんの証言にひっかかりを感じた。
初日にゲルトさんが
「私はレナと交際していたからショックだ」
と証言していたが、矛盾している。
霊媒では真実しか語られない。
ハイマンさんがレナさんと交際していたのが事実であれば、ゲルトさんが嘘をついていることになる。

このことから、俺はゲルトさんが怪しいと思い、調査をするつもりだった。男女の恋愛によっておこる悲劇は、父さんからよく聞いていたから。

 


そして最後。第三の事件が起きた。被害者はゲルトさん……とこの段階では言っておく。
これまでと同様に、容疑者の証言を整理していこうと思う。

<アレックス>
・事件のことをさっき知った。館には今日は行っていないので、犯人ではない。

<ブルーノ>
・手紙を受けて館に行ったが開いていなかったので帰った。

<ジェレミー>
・家族のいる前で、自宅でゲルトと電話をした。
・家から現場までの距離を考えると犯行は不可能。

<レオン>
・動機がないし、殺された理由もわからない。
・このままゲルトが生きていて怪しまれていた方が、犯人にとって都合が良かったのでは?

だけど俺はゲルトさんの死体を観察しているうちに違和感を見つけた。
『ゲルトの遺体の腕時計の文字盤が、手首の【外側】についている』
ゲルトさんの腕時計に関しては、しっかりと覚えている。
なぜならゲルトさんは文字盤を腕の【内側】につけた時計を見せながら、自慢をしてきたから。
日によって腕時計の付け方を変えるなんてことはあり得るのだろうか?
もしこの死体が……本当はゲルトさんではなかったとしたら?

さらに、マリーさんの霊媒の結果は、

「生きている方を降霊させることはできません」

というものだった。
ゲルトさんはやはり、死んでいなかった。


これで、今回の事件を解決するための情報は全て揃った。
矛盾を突き詰めてみよう。

まず、ゲルトさん以外の容疑者4人の証言に食い違う点は見当たらない。

やはり、まず怪しむべきはゲルトさんだ。
俺がゲルトさんを疑ったのは、「私はレナと交際していた」という一日目の証言に対抗する証言が出てきたからだ。
二日目の被害者の霊媒で、ハイマンさんが「レナと交際していた」と証言したのだ。
霊媒結果は必ず真実だ。ハイマンさんが嘘をついていないならば、ゲルトさんが嘘をついていることになる。

しかし、ゲルトさんが犯人で、自分の身代わり死体を作って逃げたのだとしたら、腕時計の付ける向きを間違えるはずがない。
この死体を作った犯人が、もしゲルトさんではないとしたら……

では、ゲルトさんが犯人ではない=嘘をついていないと考えてみよう。
例えば……そもそも、レナさんが2人共と交際していればどうだろうか?
レナさんが二股をかけていたのであれば、ハイマンさんの証言もゲルトさんの証言も真実だ。
ではいったい誰が嘘をついている犯人なのだろうか。

この第三の事件の最大の矛盾は、『死んだと思っていたゲルトさんが生きている』ことだ。
ということは、『ゲルトさんが死んだ』という情報源そのものが嘘ということになる。


では、その情報源はどこだっただろうか?
俺が事件の知らせを受けたのは誰からだっただろうか?

「ゲルトさんが″死体″で発見された」

この嘘の発言をした人こそが、この連続殺人事件の犯人だ。

それは、

受付嬢、クララさんだ。

思い返せば、クララさんの証言の意味は、彼女が犯人だとしたら全てがひっくり返る。

一日目
「私は外部の犯行だと信じたい。レナさんも素敵な方だから、殺されていい人じゃなかったのに」
▷内部の犯行(自分)だと知っている、レナは殺されてしかるべき人物だと思っている

二日目
「先日の事件の件でマリー様に取材をしたいと連絡があった」
▷「取材をさせてくれると連絡があった」とハイマンは言っていた。取材はハイマンからの申し出ではなくクララからの申し出だったのであれば、この証言は嘘になる

俺がクララ本人に「犯人はお前だ」と真実を突きつけると、

 

事件を解決することはできた。だけどもっと早く嘘に気づいていれば……
いくら悔やんでも過去を変えることはできない。だけどそこで立ち止まってはいけない。
だって俺は……探偵だから。